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新臨床研修制度が、医師の大学離れという予期せぬ事態を招いたことである。 「白い巨塔」は過去の話だ。
良くも悪くも人事権を有していた大学の医局支配が崩壊し、医師の需給は市場原理にさらされている。 厚労省医政局が06年5月に発表した、その年の医師国家試験発表後の「臨床研修医」の在籍状況集計によると、研修医の研修先は、大学病院が45%に減少する一方、地域の臨床研修病院が55%に増加、両者の格差は拡大し、研修医の大学病院離れが進行していることが明らかになった。
なぜここまで大学離れが起こったのか、その理由は定かではないが、「医学博士」を取得しても何の見返りもないと考えるドライな医師が増えたと、地域の病院は研修が充実しているうえ、思いのほか研修医を大切にすることなどが関係している。 実際、都道府県別に研修医の在籍状況(採用実績)をみると、03年度と06年度の対比では、都市部の東京が384人減、京都131人減、大阪56人減、福岡77人減となっている。

逆に神奈川が174人増、埼玉98人増、静岡69人増、沖縄68人増。 また、僻地を抱える岩手が217人増、島根も30人増となっている。
こうなると大学は医局から派遣していた1人前の医師を呼び一戻さなくてはならなくなる。 これが、医師の引き揚げ、いわゆる「貸しはがし」につながった。
日本赤十字社は07年7月、独自に行った医師不足調査の結果を厚労省に報告した。 調査は07年4月に実施したもので、それによると、日本赤十字社が運営する全国92病院のうち、「医師不足が生じている、また不足感のある病院」は76病院で、不足医師数は614人にのぼった。
不足医師を診療科別でみると、内科系191人、産婦人科系62人、小児科50人、麻酔科43人の順で多い。 日赤では、01年頃から医師確保対策として、退職医師等の登録・紹介システム、医師派遣事業等を実施してきたが、応募数は少なく、解決策にはなっていないという。
厚労省は、07年7月から「緊急臨時的医師派遣システム」を開始しており、厚労省からの要請を受け、2人の医師を派遣したが、これ以上の派遣は難しい状況だ。 こうした現象は、一時的なものなのだろうか。
奇しくも、2年間の卒後臨床研修を終えた医師の進路に関する調査結果が相次いで発表された。 いずれの調査も小児科や産科における深刻な医師不足の問題を考える上で大切な視点を提供している。

一つは、全国医学部長病院長会議がまとめたもので、臨床研修修了者の大学への帰学状況を調べた。 それによると、臨床研修を終えて大学に残る医師の割合は、2年前の72・1%から51・2%に20・9ポイント減少するとともに、その中で、小児科や外科、脳外科に進む割合が減少している。
同会議は、24時間体制の診療科やリスクの高い分野が減っているとし、こうした傾向は臨床研修制度に原因があると指摘している。 もう一つの調査は厚労省がまとめたもので、06年3月時点で全国の臨床研修病院に在籍する研修医を対象に終了後の進路を聞いたものである。
その結果をみると、20歳代のこれに対して医師不足への打ち手となると皆無に等しい。 より具体的には、医療機関の集約化を進める、自治医科大学(栃木県)の定員を増やす、地方医科大学に地元定員枠を設ける、女医バンクを創設して女医の職場復帰を促進する、など新味の乏しいものばかり。
勤務医と比較して小児科や産婦人科を選択する医師の割合は、決して減っていない。 診療科を選んだ理由としては、「学問的に興味がある」や「やりがいがある」という回答が多かった。
また、35・8%が臨床研修を受けた結果、進みたい診療科を変えたと答えているが、その理由は、「研修して他の診療科に興味がわいた」という回答が多く、「研修して大変だと思った」という回答は必ずしも多くない。 つまり、2つの調査は全く異なる結果を示しているのだ。
さらに、厚労省の調査では、専門医資格の取得についてきいているが、90%以上が専門医取得を希望している。 その一方で、医学博士号取得の希望は35%に留まる。
わが国の基礎医学の遅滞にもつながる由々しき傾向だが、この辺の事情が若手医師の大学離れにつながっているようだ。 たとえばは深刻化する医師不足に歯止めをかけるため、2008年4月から大学医学部の入学定員を各都道府県で最大5人、北海道で最大15人増やすというもの。
増員分の学生の入学金や授業料は自治体が全額肩代わりし、卒業後は僻地などの病院や診療科を指定して9年間の勤務を義務付ける。 医師不足が深刻な山間部や離島などの医療圏や、産科、小児科などでの医師確保が狙いである。
期間は10年間で、1年に最大計245人の増員となる。 政府・与党が07年5月に発表した緊急医師確保対策の一環で、国は都道府県に地方交付税を増額する形で財政援助する方針だ。
計画によると、増員対象とする大学の選定や人数、卒業後の勤務先については、自治体の担当者や大学、医療関係者でつくる都道府県ごとの協議会が決める。 学生には入学金と授業料の全額に加え、生活費の一部を奨学金として支給。
卒業後に指定した医療機関で勤務できなくなった場合は、全額を返還させる。 つまり「飴と鞭」で地域医療を担う医師を確保しようという策である。

北海道の増員枠が多いのは医師が不足している医療圏を数多く抱えているためだ。 政府は、自治体別の増員計画とは別に小規模な大学の増員枠も設定している。
入学定員が80人に満たない大学について、20人まで増員を認める。 現時点で対象となるのは、横浜市立大と和歌山県立医大の2校である。
同様の取り組みは自治医大が既に実施している。 毎年2、3人が都道府県から奨学金を得て入学し、卒業後に指定された病院に赴任しており、今回の新たな増員について、厚労省医政局は「都道府県版の自治医大構想」と位置付けている。
医学部の入学定員をめぐり、政府は既に今回の計画とは別に08年以降の10年間で、10県の大学と自治医大の計2大学について年間で最大10人ずつの増員を認めている。 自治医大以外はいずれも医師不足が深刻な地域にある大学で、卒業後は県内などでの勤務を条件に奨学金を支給する。
国がついに医師不足を認めた点は評価されるが、問題はその即効性だ。 学生にとって入学金や授業料が免除されることは大きな魅力だろう。
しかし、卒業後スポンサーとなる自治体から勤務先を指定された上、9年もの長い期間勤務しなければならない。 こうした厳しい拘束があると、志願者が集まらず増員枠が埋まらないといった事態にならないだろうか。
また、勤務先まで指定できないため、県庁所在地などの都市部に卒業生が集中してしまうとの懸念があった。 僻地では最新の医療技術を学ぶ機会が少なかったり、産科、小児科などの診療科では労働環境が過酷だったりすることが、医師不足の根本にあるとされる。
そこで筆者が提案したのが、供給過剰に悩む歯科医師(毎年、約2700人輩出)を医師にコンバートする案。 これは、構造改革特区として、東京医科歯科大学(東京都文京区)が文京区と共同で、文部科学省および厚労省に申請したもので、医師免許と歯科医師免許両方が取れるカリキュラム編成を、同大学で試験的に行うというものだ。

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